ウサギノオト

ぼんやりした考えを、コネコネしてみる。

読書メモ『昨夜のカレー、明日のパン』

久しぶりに小説を読んだ。思いの外楽しく、いい本だなぁと思った。

ここ数年、実用書中心の読書だったけれど、小説もいい出会いがあれば楽しいものなのだ、ということを教えられた。

 

 9つの章が編み合わされた、テツコとギフ、そしてカズを中心に広がる、生活を変えないでいたい人、変えたい人の人間交差点のお話。

登場人物たちの間にある、緩やかな気持ちや生活の変化、心の機微が丁寧に描写されている。

 

テツコとギフが生活する、古い住宅と銀杏の木を愛しんで大切にしていることが、伝わってくる。人間の生き方考え方は、このテツコとギフが住まう住宅のように環境から、大きな影響を受けているのではないかと思った。家に記憶が宿ると書いたのは、誰だっけか?

 

けっして、劇的な変化をともなうハラハラしたお話はなく、読む人によっては、何も起こらないつまらない話かもしれない。でも私は、こういう話がとても好きだ。

どの登場人物も完璧な人間ではなく、どこか何かが欠けていて、ユーモラスで愛おしい。私は、歳が近そうなギフさんに気持ちがシンクロして、読んでいて楽しかったな。

 

この本には、新しい家族の姿が描かれているという書評を、どこかで読んだ気がする。

私たちが住んでいる世界が少しづつ変わっていく中で、家族や生き方も変容を求められる。

作品中に、「人は変わっていくんだよ。それは、とても過酷なことだと思う。でもね、同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」というギフの台詞がある。

 

人間の心模様にはグラデーションがある。ホメオスタシス(恒常性の維持)に従って変化したくない気持ちと、物理的・精神的な老いのようなトランジスタシス。

変わっていくことが救いになるというのは、ひいては生き続けることが救いになることも、示しているのではないかと思った。

 

昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫)